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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
そのころ――、まさにそのころ。
多宝塔三重の頂上にある暗室へ、ゆうべからほうりこまれていた和田呂宋兵衛は、らんらんたる眼をとぎすまして、しばられている鉄の鎖を、時おり、ガチャリ、ガチャリと鳴らしていた。
「ウーム、いまいましい」
音を立てないようにはしているが、しきりに身もだえして、あらんかぎりの力を鎖にこころみているようす。しかし、しょせんそれはむだな努力。
だれかに、腕でも斬ってもらわないかぎり、鎖の寸断されるはずもなし、塔の太柱が砕けるはずもないのだ。
「ああ、ざんねんッ……ウーム、つつつッ……」
もがきにもがくうち、呂宋兵衛は唇をかみわって、タラタラと血潮をたらした。
とたんに、バサッと天井を打ったまっ黒な怪物がある。見ると、楼閣の欄間から飛びこんでいた一尺ばかりの蝙蝠、すでに秋の暑さもすぎているこのごろなので、翼に力もなく、厨子の板壁をズルズルとすべってきた。
「オ! しめた」
呂宋兵衛はジリジリと身をにじらせた。蝙蝠をみたとっさに思いうかんだのは、獣遁の一法、南蛮流の妖術では化獣縮身の術という。が、それを行うには、ちょっとでもよいから蝙蝠のからだにふれなければやれない。