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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
三
てもらいたいとの口上である。
こんな奇怪な話はない。
武田四郎勝頼――、すなわち、伊那丸の父なる大将は去年天正十年三月、織田徳川の連合軍にほろぼされて、天目山の麓ではなばなしい討死をとげていること、天下の有名、だれあって知らぬものはない。
だのに、その勝頼が、すみぞめの衣をきて、京都にはいったとは、なんとしても面妖である。
「おまちがいないか」
と、虎之助が念をおした時、
「断じてそういはござらん」
と、菊池半助が語をつよめていった。
しかし、京都は徳川家の勢力圏内ではない。ぜひお手配をわずらわしたい、との懇願。事件、人物がまた容易ならぬ人、なんとへんじをしましょうかと、三人の旗本がこもごも申したてた。
「ふウむ……勝頼がな」
と秀吉も、これを聞くとしばらく沈思瞑目していたがやがて重く、
「ほかならぬ徳川どののおたのみ、聞いてあげずばなるまい。しょうちいたしましたとごへんじをいたせ」
「はッ、お伝え申しまする」
と平野三十郎ひとりだけが立ってゆく。と、脇坂甚内すぐに小膝をゆるがして、
「ご承引のうえは、それがしと虎之助どのとにて、四郎勝頼のありかをたしかめ引っとらえてまいりましょうか」