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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いざ……」
あたかも、貴人の微行でも迎えるように、いんぎんをきわめて、扉のすそにひざまずいた。網代笠をかぶった三人の僧形は、黙々として、その礼をうけ、やがてあんないにしたがって、菊亭殿の奥へ、スーッと姿をかくしてしまった。
ふたたび閉めきられた裏門は、秘密をのんでものいわぬ口のようにかたく封じられた。夜はふけてくるほど、草にも花にも甘い香が蒸れて、あとはただ釣り橋の紅梅が、築地をめぐる水の上へ、ヒラ、ヒラと花びらくろく散りこぼれているばかり。
すると、その濠ぎわの木のかげから、ツイとはなれた人影があった。黒布をかぶった妖婆である。いうまでもなく、それは加茂の堤から、三人の僧をつけてきた蚕婆――
修道士すがたの黒いかたちが、朧月の大地へほそながく影をひいた。婆はヒラヒラと釣り橋のそばまできて、かたく閉じた裏門を見まわしていたが、やがて得意そうに「ひひひひひひひひ」と、ひとりで笑いをもらした。
「あれだあれだ、やっぱりわしの目にまちがいはなかったぞよ。あの三人の僧侶のうちのひとりがたしかに武田勝頼、あとのふたりは家来であろう。うまく姿をかえて天目山からのがれてはきたが、もうこの婆の目にとまったからには、運のつき……すこしも早く、呂宋兵衛さまへ、このことを知らさなければならぬが、めったにここをはなれて、また抜け