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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

虫ケラざむらい

一

というと蛾次郎は、その覆面の群れが、目の下へくるよりはやく、鉄砲玉の反れたうさぎのように、横ッとびの一もくさん――崖から崖をころげていってしまった。

虫ケラざむらい

一

――きょうは、西陣の今宮祭。

紫野から加茂の里あたりまで、なんとすばらしいにぎわいではないか。

太鼓の音に、道の紅梅は散りしき、笛の音にふくらみだす桜のつぼみ。鐘チャンギリも浮きうきとして、風流小袖の老幼男女が、くることくること、帰ること帰ること、今宮神社の八神殿から、斎院、絵馬堂、矢大臣門、ほとんど織りなすばかりな人出である。

これで、世が戦国だ、乱世だとはまったく、ふしぎなくらいのもの。

ときしも、羽柴筑前守秀吉は、北国の柴田権六をうつ小手しらべに、南海の雄、滝川一益の桑名の城を、エイヤ、エイヤ、血けむり石火矢で、攻めぬいているまッさいちゅうなのである。

留守の都で、ピイヒャラドンドンの今宮祭は、やや悠長すぎるようだが、日本はもともと祭りの国だ。かりそめの戦雲が日月をおおうても、神のまつりは絶えないがいい。また、じしんはとおく戦陣の旅にあるとも、留守の町人百姓や女子供には、こうして、春は春らしく、平和にのんきに景気よく、今宮祭ができるようにしておくのも、つまり、筑前守秀吉が、やがて大をなすゆえんであるかも知れない。