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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、まなじりに血をにじませ、藺笠のうちに鬢髪をブルブルとふるわせた。
父上、という一句をきいて、斧大九郎、ハッとあっけにとられながら、じりじりと尻ごみする。
伊那丸がハラハラと落涙するようすを見て、
「若君、かならずお力おとしはご無用でござります」
と、忍剣、龍太郎のふたりが、口を合わせてなだめるのだった。
「すでにお命のないものなら、真にご武運のすえ、また人力のおよぶところではござりませぬが、ただいま、大九郎の話によれば、まだご尊体にはなんのご異状なく、明朝、天ヶ丘から桑名の陣へうつされてまいるとのこと、折こそよし、これ天の与えたもう好機会ではござりませぬか」
「おお! かならずお父上を、お救い申しあげねばならぬ」
立ちあがった時である。
「ややッ! さては武田の?」
ぎょうてんした大九郎、跳ねあがって逃げだすと、伊那丸の一喝。
「龍太郎、そやつを討て!」
「はッ」
と答えるまでもなく、立ちあがった木隠が、やらじと猿臂をのばしたので、胆をとばした斧大九郎、にげみちをうしなって無我夢中に松のこずえへ飛びついた。
「ええ――ッ」
つんざいた木隠の気殺!
とたんに、抜きはなたれた無反りの戒刀、横にないでただ一閃の光が、松の枝にブラさがった大九郎の胴を通りぬけてしまった。