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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それはほどなく近づいた雷神の滝のひびきである。暗々たる梢から梢を、バラバラッと飛びかうものは、夜の夢をやぶられたむささびか怪鳥であろう。

鞍馬の道士果心居士、竹童をひっかかえて岩頭にたち、鞳たる雷神の滝を眼下にみた。

「竹童!」

居士の、こう呼ぶ声をきいたが、かれは小脇に引っかかえられていて、こたえる声さえでなかったのである。

と――居士は両手をさし伸ばして、あわやという間に竹童のからだを、目よりも高くさし上げた。

そして、もいちど呼んだのである。

「竹童!」

「はい……」

かれは、虚空におよぎながら、かすかに、しかし、はっきりと答えた。

「おまえはその目が開きたいか」

「ハイ、開きとうございます」

「なんのために」

「…………」

「なんのために?」

「りっぱな人間となりますために」

「ウム」

「そして正義の武士となりますために」

「ウム。ではそのためには、どんな艱難辛苦もいとうまいな」

「いといませぬ。たとえこの身がどうなりますとも」

敢然たる声でいった。

「オオ、それでこそ、師たるわしもはりあいがある。雷神の滝の宙天で誓いをたてたことばを終身の守りとするなら、おまえはおそらく天下の何人にも、おくれをとらぬ武士となるであろう。