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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そして、森のなかへすくいあげてから、たしかに鞍馬の竹童だとわかると、伊那丸をはじめ、あまりの意外さにぼうぜんとしたほどだった。場所もあろうに、深夜の滝壺から、法師野いらい、久しく姿を見うしなっていた竹童をすくいだそうとは、なんたる奇蹟! あまりのことにあきれるばかりであった。

しかし、その人々のおどろきよりは、竹童のおどろきのほうが、どんなに強いものだったか知れない。

かれは、忍剣に、森のなかへかかえこまれてきた時にありありとそこに燃えている赤い火をみた。

その火に照らされている、伊那丸のすがた、龍太郎の顔、忍剣の禅杖も、あきらかに、かれの眸に見えたではないか。

かれの目が癒えた。竹童の目があいた。

鞳たる滝の水にうたれて毒が洗われたためか――あるいは、竹童の精神を修養させる果心居士の心で、居士が、神力をもって癒やしたものか、とにかく、竹童はおのれの目の見えるのを疑い、と同時に、絶えてひさしき人々を、ここに見たのを夢のように、ふしぎがった。

竹童の話をさきに聞いてから、龍太郎と忍剣は、かわるがわるに、こんどの、都入りの大事をはなして聞かせた。

竹童は四方の話をしているあいだに、ぬれた衣服を焚火にほして身にまとった。