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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そうだ。クロを返すから、命だけを助けてくれ」

「きっとだな!」

「きっと!」

「よし、クロを返すというならば命だけは助けてやる。だが、それはいったいどこにあるのだ」

「す、す、……すこうし手をゆるめてくれなくちゃ、のどがくるしくって、声が……」

「さッ、はやくいえ!」

と少しからだを浮かしてやると、そのとたんに、泣き虫の蛾次郎、ドンと足をあげて竹童の頤を蹴とばした。あッ、と竹童もふいを食ったが、胸ぐらをつかんでいた手をはなさなかったので、足を踏みはずした勢いで、蛾次郎もろともに、ゴロゴロゴロと、二つのからだが、俵のように、石段の中ほどから下までころげ落ちていった。

地を裂く雷火

一

ごろんと石段の下にとどまると、蛾次郎はいきなり、竹童の唇へ、爪をひっかけた。

「なまいきなッ」

と竹童、その手をはらって、襟がみをつかみ、腰をあてて、車投げに、――ぶんと、大地へなげつける。が、蛾次郎もここ一生の命がけ、投げつけられて立つや否、バラバラッと横ッとびに逃げだした。

「待てッ――」

なんで竹童の足にかなうものか! すぐ追いつかれそうになる、これはとおどろいて、蛾次郎、高くそびえ立った一本の樫の木へ猿のようにツツッ――とよじのぼった。