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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
お父上! お父上!」
ほとばしる激情! われをわすれて駕籠の戸にすがりつき、僧形の人の手をとると、僧も黙然として手をとられ、ゆらりと駕籠のそとに立った。
「お父上! またもや敵の手がまわらぬうちに、一刻もはやく、ここを去ってお越しくださいませ、いざ伊那丸がごあんないいたしまする」
「どこへ? ……わしを連れていくというのじゃ」
「甲信駿三ヵ国のさかい、小太郎山のとりでの奥へ。――オオ父上、そここそ山また山、自然の嶮城、難攻不落の地にござります。お父上のご武運つたなく、ひとたびは織田徳川のために亡びこそすれ、まだその深岳のいただきには、甲斐源氏の旗一旒、秋をのぞんでひるがえっておりまする」
「ああ、その秋はすでに去りました――、天の運行は去ってかえらず、還るは百年ののちか千年の後か――」
「えッ、なんとおっしゃいます……父上!」
染衣の袖にすがりついて、ふと、網代笠の下からあおいだ伊那丸は、あッといって、ぼうぜん――ただぼうぜん、その手をはなしてこういった。
「父上とのみ思うていたが、そちは、鞍馬の果心居士ではないか」
聞くより龍太郎もびっくりして、
「やッ、老先生でござりますと? ――」