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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

「やあ、ごくろう、ごくろう」

と丹羽昌仙、土手の上から飛びおりて、

「して、どうだッた。伊那丸のようすは?」

「やッぱり、東海道から裾野へはいって、それから小太郎山へかえる道順をとるらしゅうございます」

と、さすがに早足、あれほど韋駄天と走ってきながら息もきらさずこう答えた。

「そうか、やッぱりこっちの想像どおり、思うつぼにハマったわい」

「ところが昌仙さま、あまり思うつぼでもありませんぜ。というなあ、秀吉の指図で、瀬田まで迎えにでやがった軍勢があるんで」

「ほ……秀吉が? フーン猿面め、じょさいないことをやりおって、うまく伊那丸を抱きこもうという腹だな。だがよいわ、まさかに家康の領分まで、その軍兵がクッついてもいけないだろう」

「昌仙――」

と呂宋兵衛もズルズルと下へおりてきて、

「徳川家へ取りいる算段とは、やッぱりなにか、その伊那丸をおとりにして? ……」

「こいつを利用しないのは愚でござる。武田伊那丸を心のそこから憎みぬいて、あくまでもかれを殺害してしまいたいと願っているのは、秀吉よりは家康でございますからな。また伊那丸にとっても、かれは、父の勝頼をほろぼした仇。