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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
しかし、長老の快川国師は、故信玄の恩にかんじて、断乎として、織田の要求をつっぱねたうえに、ひそかに三人を逃がしてしまった。
織田の間者は、夜となく昼となく、恵林寺の内外をうかがっていた。ところが、はからずも、勝頼の末子伊那丸が、まだ快川のふところにかくまわれているという事実をかぎつけて、いちはやく本陣へ急報したため、すわ、それ逃がしてはと、二千の軍兵は砂塵をまいて、いま――すでにこの寺をさして押しよせてきつつあるのだ。
快川は、それと知っていながら、ゆったりと、朱の椅子から立ちもせずに、三人の武将をながめた。
「また、織田どのからのお使者ですかな」
と、しずかにいった。
「知れたことだ」となかのひとりが一歩すすんで、
「国師ッ、この寺内に信玄の孫、伊那丸をかくまっているというたしかな訴人があった。縄をうってさしだせばよし、さもなくば、寺もろとも、焼きつくして、みな殺しにせよ、という厳命であるぞ。胆をすえて返辞をせい」
「返辞はない。ふところにはいった窮鳥をむごい猟師の手にわたすわけにはゆかぬ」
と快川のこえはすんでいた。
「よしッ」
「おぼえておれ」と三人の武将は荒々しくひッ返した。