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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

五

人ちがいじゃないか?

とも思って、眼をこすって見なおしたが、やはり記憶はいつわらない。どう見てもあの三人、菊池半助にバサと斬られた三ツの首の主にまぎれはない。

すなわち武田伊那丸は、眉目をあさく藺笠にかくし、浮織琥珀の膝行袴に、肩からななめへ武者結びの包みをかけ、木隠龍太郎は白衣白鞘のいつもの風姿、また加賀見忍剣もありのままな雲水すがた、手には例の禅杖をつっ立てている。

「ウーム……親方……」

蛾次郎はうなるように卜斎を見あげた。

「……はアて……」と卜斎もまたしきりに首をひねっていたが、

「どうもわからぬことがあるものだ。弥次馬にはなにもわかるまいが、わかる者から見ていると、世の中の裏表は、じつに奇妙だ。いや裏が表だか、表が裏だか、こう見ているとおれにさえわからなくなってくる」

「まったくです!」と蛾次郎も相槌をうって、

「斬られた首が本ものの伊那丸か、見ている首が本ものか、なにがなんだか、さっぱりワケがわからなくなっちまった」

「そりゃもちろん、あっちのやつがにせ者だろう」

「テ、どっちがです?」

「矢来のそとに立っているやつらよ」

「すると、生きてるほうの伊那丸ですか」