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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

見るとそこは、さっき一同が甲府から指してきた時に、汗をしぼって一列に駈けた野呂川の右岸で、その胎内の間道をくぐり、その絶頂のとりでへでようとこころみた小太郎山そのものの姿は、唖然として立った六十人の眼のあなたに――。

かなり離れた渓流の向こうに、むらさきばんだ昼霞をたなびかせ、なにごとも知らぬさまに聳えている山の容こそ、小太郎山ではないか。いま、げんに、その山の腹をくぐり登っていたはずの山ではないか。

山掘夫、山にもてあそばる!

その時、穴に入るまえはらんらんとかがやいていた太陽が、もう西へまわって朱盆のように赤くくすんでいた。

毒水に酔う砦

一

その高原の一角に立てば、群山をめぐる雲のうみに、いま、しずもうとしている太陽の金環が、ほとんど自分の視線よりは、ズッと低目なところに見える。

で――まッ赤な逆光線の夕やけに照らされている小太郎山の上、陣馬ヶ原いちめんは、不可思議な自然美にもえあがっていた。

みやま菫の濃いむらさき色、白りんどうの気高い花、天狗の錫杖の松明をならべたような群生、そうかと思うと、弟切草や茅がやの穂や、蘭科植物のくさぐさなどが、あたかも南蛮絨毯を敷きのべたように、すみきった大気もみださぬほどな微風になでられてあった。