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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、禽に聞いてみるよしもなかった。咲耶子はまたすごすごとそこをさった。
すると、大蛇の背なかのようなものが、笹を分けてザワザワと彼女についていく――それはかなりまえから先のかげをねめまわしていたのであるが、咲耶子は知らなかった。
林の道が三ツ股にわかれているところへくると、その左右にも、ふたりの人間がかがんでいて、足音を聞くとともに、ムクッとうごいたよう……
「だれじゃッ?」
はげしくいって、キッと小脇差に手をかけて立ちどまると、甲虫のような茶色の具足をつけた侍が、いきなりおどりあがって左右から二本の槍をつき向けた。
「咲耶子! しずかにしろ」
「ヤッ、おまえたちは、外曲輪の番卒ではないか」
「ばかをいえ、おれたちは大久保長安さまからたのまれて、それとなくまえから野武士をよそおい、この砦へさぐりに入っている黒川八十松、団軍次郎という者、どうだ胆をつぶしたか」
「大久保長安? ――やや、すると、おまえたちは、慾に釣られて敵の諜者に買われたのじゃな」
「知れたことだ! 武田伊那丸は留守、小幡民部もでていったこの砦は、もう空巣同然、入れ代ってきょうからは、大久保石見守さまが下り藤の旗差物と立てかわり、家康公のご支配となる。