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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「あれッ? ……」

と、蛾次郎は目をまろくして、菊村宮内の顔を見た。そして、しゃぶッていた箸で打つようなまねをしながら、

「めずらしいなア、エ、どうしたえ、大将!」

宮内はあきれかえって、返辞のしようもない顔つき。

永いあいだ薬餌をとってもらった生命の恩人――それは忘れてもいいにしろ、いきなり大人をつかまえて頭から、大将! とは。

四

「おや、おまえは……」

宮内はさらに眼をまろくして、蛾次郎のまえにある一本の徳利と、かれのドス赤い顔とをじッと見くらべた。

「酒を飲んでいるな」

厳父のような言葉でいった。

「へへへへ」と蛾次郎は、さすがに、間がわるそうにガリガリと頭をかいて、

「きょうはじめて、どんな味のものだか、ためしてみたんです」

「うまいか?」

「さっぱりおいしくねえや、なんだって、大人はこんなものを飲むんだろうな」

「酒は狂水という、頭のよい人をさえあやまらせる。ましてや、おまえのような低能児がしたしめば、もう一人前の人間にはなれない。わしの見ている前ですてておしまい」

「ヘイ……」

「また、おまえはいま、たいそうぜいたくをいっていたな、もったいないことを忘れてはいけない。