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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「にくむべき長安!」
小文治は人ごとに思われなかった。
「泣くな泣くな」背をなぜながらなぐさめて、
「泣いたところで、死んだ良人も娘も返りはしない。それよりは、おまえが伊勢まいりの時に、道中でかどわかされたという、すえの男の子をたずねだして、その子をたよりに暮らすがよい」
「はい……だ、だが、旦那さま、そんなことは、とても望まれねえことなんでございます」
「いや、世間には十年ぶり、二十年ぶりなどで、母子がめぐり会ったなどということもめずらしくはない。一心にさがせばきっとわかるだろう。それに、何かその子に目印でもあれば、なお手がかりとなって、人からも教えてくれぬかぎりもない」
「ところが、百姓の悲しさで、べつに、証拠や印になるようなものもありませず、ただ、……そうでがす……思いだしてみると、その子は、小ッけえ時から癇持ちでがしたもンで、背骨の七ツ目の節にはお諏訪さまの禁厭灸がすえてごぜえます。はあ、そりゃ大けえ、一ツ灸で他国にはねえ灸ですから、目印といえば、そんなもンぐらいでございます」
「そうか、諏訪神社の禁厭灸よくおぼえておいて、拙者たちも旅の間には心がけておくようにいたそう」