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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「蛾次かッ」

と、待っていたように龍太郎がヌッと立つと、蛾次郎は逃げ腰を浮かしながら、

「泥棒、泥棒、こ、こ、独楽をかえせ。独楽をかえせ」

と、どもりながら、手をだしたり、引っこめたりした。

馬糧小屋の奇遇

一

「――おまえは蛾次郎、この独楽がほしいというのか」

こう龍太郎がいってふところの独楽をだしてみせると、蛾次郎は飛びつきそうな眼色をして、

「欲しいやイ! 返せッ」

と、打ってひびくように、泣き声でののしった。

「返してあげよう」

「か、か、返せッ!」

「そのかわりに、少しわしのたずねることに答えてもらいたい。そうしたら独楽もかえそう、おまえの望むことにはなんなりと応じてやろう。どうじゃ、蛾次郎」

「ふウん……」

と、そこでかれの半信半疑が、やおら、腕ぐみとなって、まじりまじりと落着かない目で、小文治と龍太郎の顔色を読み廻して、

「じゃア……」と相好をくずしかけたが、またにわかにするどくなって、首をふるように、

「あかをいえ! だれが、くそ、そんなウマい策にだまされやしねエぞ。いいや! かえさなけりゃ待っていろ、代官陣屋へいって、てめえたちのことをみんないってやるから」