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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「やッ、ご家老が」

「咲耶子をすくいだそうとして、とうとうここまで曲者がなだれこんできたか。それ、なんでおくれをとっていることがある。降りろ、降りろ」

降りるのは苦もなかった。

擬宝珠に玉縄を結びつけ、ズル! ズルズルとつながってゆく。

一閃。

横に白刃の光流がその玉縄を下からすくったかと思うと、ぶらさがっていった四、五人が、束になってまッさかさまに下へ――。

「わアッ!」

というどよめきがあがる。人の惨死を見ると、人間は忘れていた兇暴な血がたけりだす。

こうなると、つねの怯者も勇士になるものだ。伊部熊蔵はカッと怒って、中断された縄のはしから千本廂の鎖にすがって、ダッ――と源氏の間へ飛びこんだ。

見るとそこには。

今夜、躑躅ヶ崎の館へ斬りこんだ覆面の少女とはまるでちがったふたりの者のすがたがチラと見えた。一方は白い行衣をきて手に戒刀とおぼしき直刃の一刀を引っさげた男。またひとりは朱柄九尺の槍をかかえて、射るがごとき眼をもった若者である。

「いないぞ、ここには」

「さっきまで狛笛の音がしていたのに」

「では、逃げたのであろう」

「いや、いくら咲耶子でも、この堅固をやぶっては逃げられまい」