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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

余一はそれで泣くのだった。

逃げた! と聞いておどろいた熊蔵や、張合いぬけのした若侍たちが、半信半疑の目をさまよわせて、どこへ逃げたのかと明け方にちかい八方の天地をながめまわすと――。

水色にすみわたった五更の空――そこに黒くまう一葉のかげもなく、ただ一閃、ピカッと惑星のそばの星が、あおい弧線をえがいて巽から源次郎岳の肩へながれた。

また、足もとを俯瞰すと。

竹童と蛾次郎の争闘から端をはっした馬糧小屋の出火は、その小屋だけを焼きつくして焔を沈め、うすい白煙とまッ赤な余燼を、あなたの闇のそこに、まだチラチラと見せている。

「ウーム、おそかったか!」

と、熊蔵は、余一の泣くのがおかしくなった。

「ぜひがない。このうえは殿にありのままをおつげして、少しも早く、ほかへ手配をつけるのがかんじんだ」

一同、手をむなしくして、屋根から降りかけた時だった。下に待っていた老臣伊東十兵衛が、なにか意味の聞きとれない絶叫をあげたかと思うと、二層目の欄間から、手槍をつかんだまま仰向けに、

「伊部ッ」

と救いを呼びながら、二層目の屋根へ、袈裟がけになって斬りおとされていった。