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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「アア……あの子もちがっていたのかしら?」

とつぶやいて、どこかに聞えるあわれっぽい鳩笛の音に、なんとはなく涙をさそわれて、垢じみた旅衣の袖に、思わずホロホロと涙をこぼした。

「おう、そこにいましたね、お時さん。いや、息がきれた息がきれた。不意に人をうっちゃってこんなところへきてしまうのはひどいじゃないか、いくらあとから呼び返してもふり向きもしないで」

と、そこへ追いついてきたのは、あの慈顔に笑みをうかべた地蔵行者の菊村宮内。

「ああ、宮内さま」

「おや、泣いていましたな」

「まだ目のさきにチラチラする。ほんとに瓜二つじゃ、あんなよう似た子供が、どうしてわしの子でないのかしら」

「いやいや、おさな顔はかわるもの、似たというものはあてになりません」

「でも、なんだか、あのふたりのどッちかは、わしの子にちがいないような気がしてなんねえのでがす」

「じゃ、おまえさんの尋ねる手がかり、あのお諏訪さまの禁厭灸が、その子の背なかにあるのでも見たのですか」

「いいえ、そら、どうやらとんと知らんけれど……」

「では――迷いでしょう。おそらくそれは親心の煩悩でしょう。――迷いの霧をへだてて見れば、枯れ木も花と見え、縁なき他人さまの子供でも、自分の子かと見えてくるのが、人情のとうぜん。