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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と、賛之丞、いちだんこえを張りあげて、

「かりに、甲州路より乱入する兵ありとすれば、一手は必定、天目山より仙元の高きによって御岳を俯瞰するものにそういござらん、その場合は?」

「陰山陽向のそなえ」

「ウーム、そのくばりは」

「全山を城地と見なし、十七町を外郭とし、龍眼の地に本丸をきずき、虎口に八門、懸崖に雁木坂、五行の柱は樹林にてつつみ、城望のやぐらは黒渋にて塗りかくし、天目山や仙元峠などより一目にのぞかれるような縄取りはせぬ」

と、鼻かけ卜斎、懸河の弁をふるってとうとうと一息にいった。

卜斎の前身を知らずに、かれをただの鏃鍛冶とばかり思っていた、大久保長安の家来たちは、少々あッけにとられている顔つき。

だが卜斎の返答が雄弁だけで、ところどころうまくごま化しているのをつらにくくおもった村上賛之丞は、やや激して、

「さらば問わん」と開きなおり、

「以上の縄取りによれば、多摩の長流を唯一のたのみとし、武蔵野の平地と上流の敵にのみ備えをおかるるお考えのようにぞんずるが、かりに、御岳の裏にあたる御前山へ奇兵をさし向け、西風に乗じて火をはなたば、前方の嶮は城兵の墓穴、とりでも自滅のほかはあるまいと思うがいかに」