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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ところで、ただいまもうした咲耶子という女は、なにか、そこもとのほうで捕らえておく必要がおありなのか」
「いやいや、じぶんとしては、さいぜんからの騒擾をしずめる手段として、やむなく発砲したまでのこと、それゆえ、女の左の腕をねらって、一命にはさわりのないように、はじめから用意しておる」
「ならば、あの鷲のからだをねらってうったほうがよかったであろうに」
「あれほどの大鷲が、一発の弾でおちてくるはずはない。さすれば、女は谷へふりおとされ、二ツの生命を傷つけることになる。これも、御岳三日の神文の約を守ればこそ」
「さすがは一火先生、それほどまでのご用意があろうとは、石見守も敬服にたえませんです。いずれこのことは大講会閉会ののちに主君家康公にもうしあげて、なにかの形でご表彰いたしたいと思うが……」
と、長安は老獪な弁舌で、単純な武芸者肌の一火を、たくみにおだてあげ、さてまた、
「そちらにご不用なあの咲耶子、右のしだいゆえ、どうかこのほうへお下げ渡しを願いたい」
と、ものやさしく奥の手をだした。
するととつぜん、ことばの横から、
「イヤ、待ッた!」
ずんと鉄杖を大地について、加賀見忍剣がそれへでてきた。