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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

といった。龍太郎はびっくりして、それへ進んだ。

「しばらく、先生のおおせながら、余人にその儀をおいいつけになられては、手まえのたつ瀬も、面目もござりませぬ。どうか、まえの不覚をそそぐため、拙者におおせつけねがいとうぞんじます」

「いや龍太郎、おまえには、さらに第二段の、大せつなる役目がある。まずこれをとくと見たがよい」

と、革の箱から取りだして、それへひろげたのは、いちめんの山絵図であった。

「これは?」と龍太郎は腑におちない顔である。

「ここにおられる、小幡民部どのが、苦心してうつされたもの。すなわち、自然の山を城廓として、七陣の兵法をしいてあるものじゃ」

「あ! ではそこにおいでになるのは、甲州流の軍学家、小幡景憲どののご子息ですか」

「いかにも、すでにまえから、ご浪人なされていたが、武田のお家のほろびたのを、よそに見るにしのびず、伊那丸さまをたずねだしてふたたび旗あげなさろうという大願望じゃ、おなじ志のものどもがめぐりおうたのも天のおひきあわせ、したが、伊那丸さまのありかが知れても、よるべき天嶮がなくてはならぬ。そこで、まずひそかに、二、三の者がさきにまいって地理の準備、またおおくの勇士をも狩りもよおしておき、おんかたの知れしだいに、いつなりと、旗あげのできるようにいたしておくのじゃ」