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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「お師匠さま、お師匠さま」と呼びたてた。

「うるさい和子じゃ。あまり飛んで歩いてばかりいると、またその足がうごかぬようになるぞよ」

芭蕉亭の竹縁に腰かけていた居士の目が、ジロリと光る、その手に持っている手紙をみた竹童は、ふいとさっきの用を思いだして、うわばみと鷲の話ができなくなった。

「あ、お師匠さま、さきほど、お手紙がまいりましたから、猿に持たせてよこしました。もうごらんなさいましたか」と目の玉をクルリとさせる。

「横着なやつめ。小幡民部どのからの大切なご書面、もし失のうたらどうするつもりじゃ」

「ハイ」

竹童は頭をかいて下をむいた。居士は、白髯のなかから苦笑をもらしたが、叱言をやめて語調をかえる。

「ところでこの手紙によって急用ができた、竹童、おまえちょっとわたしの使いにいってくれねばならぬ」

「お使いは大好きです。どこへでもまいります」

「ム、大いそぎで、武蔵の国、高尾山の奥院までいってきてくれ、しさいはここに書いておいた」

「お師匠さま、あなたはごむりばかりおっしゃります」

「なにがむりじゃの」

「この鞍馬の山奥から、武蔵の高尾山までは、二百里もございましょう。