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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
竹童はあわてて、いくどもいくども、方向をかえようとしたが、さらにききめがなく、地上へもどらんとしても、いつものようにスラスラと降りてもくれない。ああいったいこれはどうしたことだ。
「チェーッ、畜生、畜生、畜生」
かれはクロの上でかんしゃくをおこし、じれだし、最後にベソをかきだした。
そもそも今日は竹童にとっていかなる悪日か、ベソをかくことばかり突発する日だ。しかし、そう気がついてももうおそい、いくら泣いてもわめいても、鷲に一身をたくして雲井の高きにある以上、クロの翼がつかれて、しぜんに大地へ降りるのをまつよりほかはない。それはまだよかったが、泣き面に蜂、つづいておそるべき第二の大難が起ってきた。
すでに今朝から陰険な相をあらわしていた空は、この時になって、いっそうわるい気流となり、雷鳴とともに密雲の層はだんだんとあつくなって、呼吸づまるような水粒の疾風が、たえず、さっさっとぶっつかってきた。
そして、鷲が雲より低くいくときは、滝のごとき雨が竹童の頭からザッザとあたり、上層の雲にはいるときは白濛々の夢幻界にまよい、髪の毛も爪の先も、氷となって折れるような冷寒をかんじる。