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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

しかも、クロはこの難行苦行にも屈する色なく、なおとぶことは稲妻よりもはやい。

すると漠々たる雲の海から、黒い山脈の背骨がもっこりと見えだした。竹童はどうにかして、ここから降りようと苦策を案じ、いきなり手をのばして鷲の両眼をふさいでしまった。

人間でも目をふさいでは歩けないから、こうしてやったらきっと止まるだろうという、竹童が必死の名案、はたせるかな鷲もおどろいたさまで、糸目のくるった凧のようにクルクルッとめぐりまわりだした。かれの計略が図にあたって急に元気よく、

「もうこっちのものだぞ、しめた、しめた」

とよろこんだが、あわれそれも束の間。

たちまち鳴りはためいた雷が、かれの耳もとをつんざいた一せつな、下界にあっては、ほとんどそうぞうもつかないような朱電が、ピカッピカッと、まつげのさきを交錯したかと思うまもあらばこそ。

「あッ」

といった竹童のからだは、おそるべき稲妻の震力にあって、鷲の背なかからひッちぎられた、そしてまッさかさまとなって、いずことも知れぬ下へ一直線におちていくなと見る間に――追いすがった鷲の嘴は、いきなりパクリと竹童の帯をくわえ、わらか小魚でもさらっていくように、そのまま、模糊とした深岳の一角へ、ななめさがりにかけりだした。