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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と報告された。さらにあいだも待たず、

「あやしいやつが二、三十人ばかり、嶮岨をよじ登って、人穴の裏へまわったようす」

「前面の雨ヶ岳にも、軍兵の声がきこえてきた。水門口のそとでも、鬨の声があがった――」

一刻一刻と、矢のような注進。

そのごうごうたるさわぎのなかへ、風に乗ってきたごとく、こつぜんと走りかえってきた和田呂宋兵衛は、一同にすがたを見せるよりはやく、

「なにをうろたえまわっているかッ、洞門をまもれ、水門へ人数をくばれ、バカッ、バカッ、バカッ」

八方へ狂気のごとくどなりつけた。そのくせ、かれじしんからして衣はさかれ目は血ばしり、おもては青味をおびて、よほど度を失っているのだからおかしい。

昌仙は、それ見ろ、といわんばかり、

「おさわぎなさるな、頭領。大方こんなこととぞんじて、すでに手配はいたしておきました」

「おお軍師。こののちはかならず御身のことばにそむくまい。どうか寄手のやつらを防ぎやぶってくれ」

「ご安堵あれ、北条流の蘊奥をきわめた丹羽昌仙が、ここにあるからは、なんの、伊那丸ごときにこの人穴を一歩も踏ませることではござらぬ」

轟又八は、いつのまにか、こそこそと雑兵のなかへ姿をかくしてしまった。