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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「あるある。安土などよりはぐんとよい地形がある。まず秀吉が住むとなれば、この摂津の大坂だな……」

この地図を見ていると、秀吉はいつもむちゅうだ。青も赤も黄色も眼中にない、かれの目にはもう一色になっているのだ。

「関東には一ヵ所よい場所があるな。しかし、西国の猛者どもをおさえるにはちと遠いぞ。――お、これが富士、神州のまン中に位しているが、裾野一帯から、甲信越の堺にかけて、無人の平野、山地の広さはどうだ。うむ……なかなかぶっそうな場所が多いわ」

ひとり語をもらしながら、若いのか爺いなのか、わからぬような顔をちょっとしかめていると、

「秀吉どの――」

かるく背なかをたたいた人がある。

「おお」

われに返ってふりむくと、いつのまにきていたのか、それは右少将徳川家康であった。

「だいぶ、ご熱心なていに見うけられまするのう」

「はッはッはははは。いやほんのたいくつまぎれ。それより家康どのには、近ごろめずらしいご登城」

「ひさしく三法師君にもご拝顔いたしませぬので、ただいまごきげんうかがいをすまして、お暇をいただいてまいりました。時に、話はちがいまするが、さきごろ、秀吉どのには世にもめずらしい品をお手に入れたそうな」