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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「えい、泣くなッ」

と叱りつけた菊池半助。いったい、この厄介者をなんに利用しようとするのか、むんずと横脇にひっかかえて馬の鞍壺にとびあがり、つるべうちの鉄砲を聞きながして、人無村から闇の裾野へ、まッしぐらに、逃げおちてしまった。

いっぽう、蚕婆の家の床下から、人穴城の間道をすすんでいった加賀見忍剣と巽小文治。

瞳はいつか闇になれたが、道は暗々として行く手もしれない。冥府へかよう奈落の道をいくような気味わるさ。ポトリ、ポトリと襟もとに落ちてくる雫のつめたいこと。たえず、冷々と面をかすめてくる陰森たる風、ものいえば、ガアンと間道中の悪魔がこぞって答えるようにひびく。

――と、つねに沈着な巽小文治が、ふいに、「あッ」とさけんで一歩とびのき、片手で顔をおさえてしまった。

「どうした、小文治どの」

「なにか風のようなものに、さっと面をふかれたその痛さ。忍剣どのもかならずごゆだんなさるまいぞ」

「そんなバカなことがあろうか、あれは年へた蝙蝠のたぐいじゃ」

と入れかわって、忍剣が、さきに立って二、三歩すすむと、かれも同じように奇怪ないたさに面を刺されて、たちまち片目を押さえてしまった。