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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いっぽう、蚕婆の家で、たむろをしていた部下の者たちは、床下の穴から濛々たる煙がふきだしてきたので、すわこそ、忍剣と小文治の身のうえに、変事があったにちがいないと、すくなからずさわぎあっていた。そこへ意外な方角から、ふたりが無事でかえってきたので、一同あッけにとられてしまった。
やがて、勢ぞろいをして、人無村をでてゆく一列の軍馬を見れば、まッさきに馬上の加賀見忍剣、おなじく騎馬たちの上部八風斎、巽小文治、それにしたがう二十余人の兵。――この一列が整々として雨ヶ岳の本陣へかえってくるまに、富士の山は、銀の冠にうす紫のよそおいをして、あかつきの空に君臨し、流るる霧のたえまに、裾野の朝がところどころ明けかけてくる。
人無村の柿の木には、今朝も烏がむれていた。
死地におちた雨ヶ岳
一
富士川の名物、筏舟に棹さして、鰍沢からくだる筏乗りのふうをよそおい、矢のように東海へさして逃げたふたりのあやしい男がある。
海口へ着くやいな、しぶきにぬれた蓑笠とともに、筏をすて、浜べづたいに、蒲原の町へはいったすがたをみると、これぞまえの夜、鼻かけ卜斎の屋敷から遁走した菊池半助。