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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「もし、伴天連さま」

きれいな侍女たちが三、四人、駕籠をはなれて腰をかがめた。伴天連――呂宋兵衛と蚕婆は、もったいらしく、祈祷の膝をおこして、

「はい、なんぞご用でござりますかな」

「あの駕籠のうちにおいでなされますのは、ご城主さまの奥方小谷の方さまでいらっしゃいます」

「ああそれはそれは、右大臣信長公のお妹君で小谷の方さま、おうわさにもうけたまわっておりました」

「奥方さまは、そのむかし、安土においでのころから、マリヤさまをふかいご信仰でいらっしゃいます。ついては、なにかお祈祷のお願いがあるとのこと、ごめいわくでも城内までお越しあそばしてくださいませぬか」

「おやすいこと、すぐにもお供もうしましょう」

と、呂宋兵衛は、人知れず蚕婆に目くばせして、聖僧気どりのうやうやしく、小谷の方の乗物について大手の橋を渡りこえた。

すると多門の塀際ですれちがった、りっぱな武士がある。

「おや?」

と伴天連のすがたを見送って、

「こりゃふしぎだ、いま奥方の供に加わっていったやつは、たしかに、いつぞや海賊船で別れた和田呂宋兵衛、ひとりは裾野の蚕婆によく似たやつだ……はて、みょうだわい」