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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

勝家も聞きとがめて、

「南蛮寺で聞くような、いまわしい鐘の音色、奥の局でするらしいが、やかましいゆえ、止めてまいれ」

「はッ――」

と気転よくたった小姓の藤巻石弥、ふと廊下へでるとこは何者? 評定の間の袖部屋へじッとしゃがみこんでいる黒衣の人間。

「間諜ッ!」

大声に叫んで、ダッ! と組みついた。奮然と、むこうからもむかってくるかと思ったがあんがい、グズグズとくじけてしまったので石弥もあっ気にとられた。

「なに、諜者が入りこんでいたと?」

勝家をはじめ、玄蕃允、若狭守など、めいめい燭をかざしてそれへでてきた。

「なんじゃ、そちは伴天連……しかも老婆ではないか」

「はい、はい、……どうぞおゆるしくださりませ」

黒いかげは、竿でハタキ落とされた蝙蝠のようにおののいていた。毛受勝介はッたとにらんで、

「きさま、ただいまの密議を、ここで聞きおッたな!」

「めっそうもないこと、わたくしは神さまに仕える修道士でございます……戦のご評議などを立ちぎきしてなんになりましょう」

「その修道士が、なんでかような場所へ入りこんだか。婆! うそをもうすと八ツ裂きだぞ」

「奥方さまのおたのみで、お祈祷にあがりました……ハイ、三人の姫君さまが、そろいもそろうてご風気の大熱……そのご平癒を神さまにお祈りしてくれとのご諚をうけてまいりました」