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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いまも、祐筆になにか書かせながら、じぶんは花判黒印をペタペタ捺している。
ちかく出師せんとする柴田がたの滝川征伐、その兵を糾合する諸大名への檄文であるらしい。
「なんじゃ」
むぞうさにこたえて、次のへ、ペタリと一つ捺した。
「とうとうやってまいりました」
「だれが」
「裾野の和田呂宋兵衛。おそるおそるご拝謁を願いに、陣前へまかりこしております」
「富士の人穴で、二千の軍兵をかかえながら、勝頼の遺子、武田伊那丸に追いまくられて、こんどはわしへとりいる気だな」
「むろん、ご賢察のごとくでござりましょう」
「まアいい、ここへ持ってこい」
と、まるで品物を見るようにいった。
「可児才蔵はあるか!」
おおきな声でどなった。
はなやかな小具足をつけた可児才蔵、幕をはらって階下に頭をさげる。
「しばらくそこにおれ」
といったまま、また祐筆にむかってなにか文言をさずけている。と、福島正則、和田呂宋兵衛と蚕婆の修道士を連れてはるかに平伏させた。
呂宋兵衛は、ここぞ出世の緒口と、あらんかぎりの巧舌と甘言で、お目見得した。まず、将来天下人の兆瑞がお見えあそばすということ、君のおんためには死も一毛より軽しということ、それから、こんどは手まえ味噌で天下の野武士はわが指一本にうごくというじまん、幻術は天下無双、兵法智略には、丹羽昌仙という腹心の者が