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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
目でうなずいて、藺笠の美少年は、それへ腰をおろした。この公達こそ、甲州小太郎山の雪の砦から、はるばる、父勝頼の消息を都へたずねにきた武田伊那丸であった。
そのわきに、頭を下げたのは木隠龍太郎で、加賀見忍剣は、ひッかかえてきた斧大九郎をそこへほうりだして、
「若君、いざ、おしらべなさいませ」
と、少しさがったところで、れいの鉄杖を、持ちなおしている。
「下郎、おもてを見せい」
伊那丸はいった。これはまた、忍剣の鉄杖より、龍太郎のはや技より、一種べつな気稟というもの、下郎大九郎は、すでに面色もなく、ふるえあがって両手をついた。
「ま、まったく持ちまして、さいぜんのことは泥酔のあまりでござる。どうぞ、ひらにひらに、おゆるしのほどを……」
これがつい、いましがた、今宮の境内を修羅にして暴れまわった男とは、思えぬような、弱音である。
いうのをおさえつけて、伊那丸は、ハッタとにらんだ。
「卑怯なやつではある。むだ口を申さずと、ただこのほうがたずねることに答えればよいのじゃ」
「は……はい、命さえ、おたすけくださるぶんには、斧大九郎、なんなりとぞんじよりを申しあげます」