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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

こうして、伊那丸主従は、信濃の山を越えて、善光寺平をめぐり、諏訪をこえて、また甲州路へ足を踏み入れた。

しかし、甲府へはいるにさきだって、民部の献策によって六人は三組に分れることにした。なぜかといえば、小太郎山奪取ののち、徳川家は大久保石見に命じて、いっそう伊那丸の追捕を厳命した。いたるところに、間者や捕手をふせているもようが見えたからである。

伊那丸は小幡民部と。

山県蔦之助は加賀見忍剣と。

木隠龍太郎は巽小文治と。

こう二人ずつ三組にわかれて、甲府の城下へまぎれこみ、大久保家の内状をさぐったうえにて、間隙をはかって館のうちに捕らわれている咲耶子をすくいだす目的をしめし合わせた。

しかし、躑躅ヶ崎の平城は、厳重をきわめているうえに、さすがはむかし信玄じしんが縄張りをした郭だけあって、あさい外濠を越えて、向こうの石垣にすがるたよりもなかった。

で――一党六人の人々、むなしく、咲耶子の身をあんじながら、手をこまぬいて弱っていると、ここに思いがけない好時機が、近い日のうちにせまっているのを知った。

それは、なにかというと。

甲斐の東端、北武蔵との山境にある、御岳神社の紅葉の季節にあたって、万樹紅焔の広前で、毎年おこなわれる兵学大講会に、ことしは、大久保石見守長安が、家康の名代としてでかけるといううわさである