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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
。
で――小幡民部は、
「若君、この機を逸してはなりません」
と、伊那丸に一策をさずけた。
それから間もなく、忍剣と蔦之助の組も、伊那丸も、甲府表からすがたを隠して、あいかわらず、躑躅ヶ崎のようすをうかがっているものは、龍太郎と小文治の一組になっていた。
その龍太郎は、御岳神社の兵学大講会に長安がでかける日をねらって、咲耶子を救いだすつもりであるが、なろうことなら一日も早くと気をあせって、きょうも城下をそれとなく歩いているうちに、思いがけない蛾次郎というものを見つけて、おとりの独楽を取りあげてきた。
いまに、それを奪りかえしに追いかけてきたら、あの蛾次郎を独楽にまわして、ひとつ、さぐりをかけてみようと手ぐすね引いて待つのであったが、うわべは、心棒がゆるんでいるように見えて、ときどき、大人の鼻を明かす横着独楽、こっちの腹を読んでいるのか、なかなかやってきそうもない。
三
水のきれいな甲斐の国、ことに秋の水は銘刀の深味ある色にさえたとえられている。
ほの暗い宵闇のそこから、躑躅ヶ崎の濠の流れは、だんだん透明に磨ぎだされてきた。眸をこらしてのぞきこむと、藻にねむる魚のかげも、底の砂地へうつってみえるかと思う。