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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
…………
閣上の源氏の間には、一穂の燈火、切燈台の油を吸いつくして、ジジジと泣くように明滅している。
あたりはさっきのままである。
ただ、銀泥色絵の襖のまえには、蒔絵の硯蓋の筆が一本落ちてあって、そこにいるはずの咲耶子のすがたも見えず、お小姓星川余一のかげも見当らなかった。
「おお、いない!」
数珠梯子から飛びあがった伊部熊蔵と伊東十兵衛は、予期していたことであったが、愕然として顔を見合わせた。
とたんに。
頭の上でガラガラと異様なものおとを聞いたかと思うと、四、五枚の青銅瓦が、廂のはしから落ちてくるなり本殿平屋の瓦の上で、すさまじい金属音を立てた。
そして、まさしく屋根の天ッ辺。
「お出合いなさい! お出合いなされ! 大久保家のご家中の方々、あやしいものが逃げまするぞ、早く、早く、早くここへ!」
高きところに声を嗄らしている小姓余一の絶叫が、一同の頭からけたたましく聞えてくる。
二
「あれだッ――お使者のこえ」
「おお、屋根、屋根の上!」
「のぼれ!」
「咲耶子を手捕りにして余一を助けろ」
あわてきった十兵衛の指図と熊蔵の叱咤が、若侍たちの先駆けをあおッた。