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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
熊蔵としては、庭手白壁門のほうの状況を主人に告げるつもりで、ここへきたのであったが、出合いがしらに老臣からそう急かれて見ると、なにを話している間もなく、
「すりゃ大へんです! 心得ました」
もとへ引っかえして、築山の一角から、れいの鉱山掘夫に使う山笛というのを吹き立てると、たちまち、真っ黒になるくらいな人数がワラワラとかれの周りを囲繞してあつまった。
おまえと、おまえと、おまえと、おまえ。
なかで腕のすぐれていそうな顔を、伊部熊蔵、指さきで十二、三人ほどえりぬいて、
「源氏閣へこい!」
自分がさきへバラバラと馳けだしたが、また、ひょいとうしろの者たちをふりかえって、
「残ったものは殿のご寝所のほうを守れ、もう木戸や多門の固めにはじゅうぶん人数がそろったから、よも、やぶれをとるおそれはあるまい」
いいすてて桜雲台へ馳けてゆく。
桜雲台は躑躅ヶ崎七殿の中核であって、源氏閣の建物はその上にそびえている。
平常は錠口より奥、平家来禁入の場所であるが、いま老臣十兵衛がさきにまわってふれてあったので、一同表方で血戦してきたままの土足抜刀の狼藉すがたで、螺旋状の梯子口から二層目へかけ上がり、それより上は階段がはずされてあるので、鈎縄、あるいは数珠梯子などを投げかけ、われ一番乗りとよじのぼっていった。