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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「その方はいったいだれであるか」
こう聞くと、余一は泣いている手をはなして、
「お小姓とんぼ組の星川余一……」
そう答えて、また声あらためて泣くのだった。
「なに、ではそこもとが、公書のお使者番となってまいられた星川どのか」
「は、はい……」
「なにを泣いておられるのか、ただいま、三太郎猿が首につけてきた知らせを見て、殿にもことのほかなおおどろき、そっこく、ご助勢をするためわれわれが、ここへ馳けつけてまいったものを。おお、してしてこの閣に監禁しておいた咲耶子なる女をごぞんじないか、あれをにがしては一大事だから」
「だから……だからわたしが……早くお出合いなさいと、あれほど呼んでおりましたのに」
しゃくりあげて、余一はまたくやしそうに、オイオイと肩をゆすぶりながら、
「もうだめ! もうだめ! みんなの来ようがおそいから、わたしがここで一生けんめいにおさえていた咲耶子は、とうとう擬宝珠につないでおいたクロをうばって、あれあれ、あれ向こうへ――」
「えッ」
「逃げちゃった、逃げちゃった……。あのクロをなくしては、わたくしは、浜松城にいる万千代さまに、帰っておわびをすることばがございません」