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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おのれ」

憤怒はついにかれの手を、脇差の柄にふれさせて、今にも、目にもの見せてくれんずと、ぶるぶると、身をふるわせた。

「おや、なんでえ、それは」

「べらぼうめ、物乞いがそんな錆刀なんぞをヒネクリまわしたところで、だれがしりごみするものか」

「さッ、でてこい、そとへ!」

「その錆刀の手うちを見てやろうじゃねえか」

宮内の血相には多少おどろいたが、多寡が地蔵さまを背負ってあるく鉦たたき、なんの意気地があるものかと、頭から見くびって、思うぞんぶん、唾をとばして罵詈するので、いまはもう、あのやさしい宮内の形相も、血を見ねばしずまりそうもない殺気を見せた。

だが。

かれはふと、そこへ蹴飛ばされてきた地蔵菩薩のお像に目をとめた。蹴られても、足にかけられても、みじん、つねの柔和なニコやかさとかわりのない愛のお顔。

「あッ……」

かれは、刀の柄にかけた手を縛りつけられたように、よろよろと、うしろへ身を引いた。

「誓いをわすれた……ああ、悪かった」

そうつぶやくと、殺気の形相は一しゅんにさめて、かれの顔は地蔵のとうとい微笑に似てきた。

「バカ野郎め」とたんに、

「なにを寝言をいってやがるんでッ」