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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ひとりの男の拳骨が、ガン! と頬骨のくだけるほど、宮内の横顔をはり飛ばした。

「さッ、でろ、でろッ、そとへ」

蹴る、なぐる、突き飛ばす。

宮内は甘んじてぞんぶんになった。

踏みつけられる土足の下にも、地蔵菩薩と同じような微笑を失ってはならないぞと自分の心を叱っていた。カッと、吐きつけられた痰つばをも、かれは、おとなしくふいていた。

かれには誓っていたことがある。

武士をすてて竹生島にかくれた時、そして、地蔵菩薩の愛の旅に島をでたとき、かならず、終生刀を抜くまいぞと心にちかった。

いまは乱世だ、血みどろの戦国である。

人は旅にある時も、町を歩むにも、家に寝ている間にも刀を肌身にはなせない世の中だ。

けれど、人に愛をおしえ、不遇な子の友だちとなり、人に弓矢鉄砲いがいの人生を悟らせようと志している自分が、その刀をたのみにしたり、その殺生をやったりしてはならない。どんなことがあっても、生涯刀は抜くまい、刀は差していても手をかけまい! 地蔵菩薩の愛の体得をけっしてわすれまい!

固くかたく、それを胸の誓いとして、地蔵のみこころにむすびあわしている菊村宮内。

「げじげじめ」