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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

子をたずねる愛執の闇、生みのわが子をさがしあるく母性のまよいに、ふしぎな錯覚を起しているお時は、相手のはにかみにも気がつかず、ただ(もしやこの子が)と思う一途に、

「じゃあおめえは、両親を持っているかね。――ほんとの父つァんを知ってるけえ? おめえを生んだおッ母さんはどこにいる?」

絶えて忘れていた一つのさびしさが、そのだしぬけなお時のことばに、ハッと、竹童の胸をうってきた。

ほろほろと

啼くやまどりの声きけば

父かとぞおもう

母かとぞおもう

竹童はだれかに聞いたこの歌一つをおぼえていて、父を思うとき、母をおもうとき、寝床のなかや森のかげでひとりこの歌をくり返しくり返ししていると、いつもひとりでに涙がでてきた。

かれは、生まれながらにして、父母を知らない。

もの心ついたころから、鞍馬の奥の僧正谷で果心居士にそだてられ、友とするものは猿や鹿やむささびや怪鳥のたぐい、師とあおぐ人も果心居士、父とうやまう人も居士、母とあまえる人も居士であった。

「おいらは、木の股から生まれたんだ」

ついこの間うちまで、かれはこう信じていた。

しかし、やがて僧正谷から実世間のなかへもまれだしてみて、はじめて、人間には両親のあることを知った。