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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

この御岳では、殺すわけにもゆかないが、うム、こうしてやる」

まえに寄ってくると、呂宋兵衛、煙草色のウブ毛がいっぱい生えている大きなてのひらで、竹童の横顔を、みみず腫れに腫れあがるほど、三つ四つ打ちつづけた。

それにもあきたらず、最後に、喉笛でもしめつけられたか、かれのからだをかかえていた蚕婆が手をはなすと、グッタリと地上にたおれてうッ伏せになった。

「ふん……」

と、せせら笑いながら、

「婆、こっちへはいっていろ」

一方の幕をあげて、呂宋兵衛がすばやく影をかくすと、老女修道者となって、たえず彼についている吹針の蚕婆も、ニヤリと歯をむきながらそのあとから腰をかがめかけた。

と、その弱腰へ、一本の鉄杖の先が、

「これ」と、かるく突いた。

かるく突いたが、くろがねの杖である。力を入れないようでも忍剣が突いたのである。

「うッ……」

というなり蚕婆は、甲羅をつぶされた亀の子のように、グシャッと幕の裾にへたばってしまった。

その陣幕をはらいあげて、忍剣は、蚕婆には見むきもせず、飛足を跳ばしておどりこむなり、稲妻のように次のとばりの間へ、チラと逃げこんだ黒衣の袖を、グッとつかんだ。