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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「悪伴天連呂宋兵衛、待て!」

四

「なにッ」

というと銀の鞭が、びゅッと、忍剣の腕をつよく打ちかえしてきた。

――まさしく和田呂宋兵衛である。逃がしてはならない。忍剣はそう思った。

じつをいうと、かれがここへ馳けつけてきたのは、山県蔦之助の遠矢の敗北がなんとも、ふしんな負けかたであり、解しかねる点が多々あるので、徳川方の勝ちと叫んだ検証の一火や目付役の者に、一苦情持ちこむため、いきおいこんで駈けだしてきたのだ。

もとより、ここで呂宋兵衛と出会おうとは、夢にも予感をもたないのだった。

しかし、竹童が締めたおされたのも目撃したし、その魁異な妖人のすがたは、夢寐にも忘れていない仇敵である。

なには措いても、見のがせないやつ!

「おのれ」

ふりつけてきた、銀の細鞭をかわしながら、なお、忍剣は片手につかんだ黒衣の袖をはなさない。

呂宋兵衛はぜったい絶命――。

「御岳だ!」と、叫んだ。

御岳だぞといったのは、血を見るなかれの神文の誓いをふりまわして、卑怯に相手をためらわそうとしたものである。

「だまれ、妖賊」忍剣は耳もかさない。

引きもどそうとする力、逃げこもうとする力、とうぜん、ベリッと黒衣の袖がほころびた。