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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「したが、加賀爪伝内の遠矢が、額ぶちにりっぱに立っているのに、貴公の矢が鳥居の柱にも立っていないのはどうしたしだいか、これ、弓勢たらずして、矢走りのとちゅうから、谷間へおちた証拠ではあるまいか」

というのは、徳川方の強弁だった。

それにたいして、蔦之助は笑いをなげて、

「いや、自分の弦をはなれた矢が、谷間へ落ちたものか、的を射当てたものかぐらいなことは、弓がえりのとたんに、この手もとへ感じるものでござる。たとえば、鐘巻どのの鉄砲にしても、その実感にお覚えがあろうが」

「ウムなるほど……それはたしかに一理がある」

一火はさすがに、そのことばを反駁しなかった。

だが、奉行の石見守や目付たちは、どうしてもその説だけではがえんぜない。また、蔦之助としても、事実において、その矢が的先に見えないのであるから、それ以上、なんと理由づけて力説することもできないのであった。

「では、この勝負は、ざんじ自分がおあずかり申すとしよう。そのかわりに……」

と、鐘巻一火は中にはさまってこまりはてたあげく、窮余の一策を持ちだして、

「最後の勝負、遠駆けのおりに、あの大鳥居をめあてとして馳けさせ、そうほう、その矢を持ちかえってくるとしたらどうであろうか。