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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

わくわくと自分の腰に手をやってみる。

さいぜん、帯へさした、蔦之助の矢はたしかにあった。

「ウム、野郎め。まだあいつの足では御岳の試合場までは行きつきはしめえ。……なんの見ていやがれ、早足の燕作が一世一代にすッ飛んでくれるから」

足と腰の骨を二つ三つたたくと、孫悟空が急用にでかけたように、燕作のからだは鳥居のまえから見ているうちに小さくなっていった。

いや、その早いことといったらない。まるで足が地についていないようである。

またたく間にもとの渓流にかかってきた。

ここは谷間のせいか、いちだんと暮色が濃くなって、もう夕闇がとっぷりとこめていたから燕作は泣きだしたくなった。

「ええ、大へん」

もしこの遠駆けにおくれを取ったら、あの呂宋兵衛がおれをただはおくまい。菊池半助や大久保長安なども、さだめしあとで怒るだろう。いや、おこられるだけならまだいいが、勝ったら百両といわれた褒美もフイなら、第一、天下の早足の名まえがすたる。

意地でも欲でも勝たなければならない。

「ええ、間道をゆけ、間道を」

とうとう燕作、ここまで試合をつづけてきて、最後にさもしい町人根性をだした。