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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「外城のものまでも、毒にまわされてしまったと見える、ああッ! ……」

絶望的な声と一しょに、思わず陣貝をとり落とすと、井楼やぐらの下の岩へ、貝はみじんとなってくだけた。

「咲耶さまッ」やぐらの下へだれかかけてきた。

「お、竹童! ――竹童さん?」

「貝合図は吹いてもムダです――扇縄の水の手へ、毒を流したものがあって、砦の者はみなごろしになってしまった。アア、ここはもう死の城だ!」

かれの声は悲壮だった。

「そして、陣馬ヶ原にいたまわし者は?」

「斬りちらして馳けだしてきたんです――こっちのほうが心配になるので」

「といっても……味方はおまえとわたしふたりきりだ」

「たとえふたりきりになっても、この砦を敵の手には渡されない」

「よくいった! 死んでも敵へは渡せない! ……おやッ?」

「な、なんです」

と竹童は、やぐら柱にすがって伸びあがっている咲耶子のかげを下からあおいでいった。

「――外城の方には、まだ無事な味方がいるらしい」

「えッ、なにか合図がありますか」

「みだれた火の影がチラチラとうごきだして、上へ上へと押してくる」

「おお、しめた! じゃ、咲耶さま、早く!」

と手招きした。