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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

無念や、山県蔦之助は、試合目付の退場の命と、その嘲笑におくられて、悄然とそこをひかなければならなくなった。

すると――。

それよりほんのわずかまえに、試合の勝敗が心配のあまり、桐紋の幕のうしろから、そッと抜けだしていた鞍馬の竹童は、なにげなく、諸国の剣士のひかえ所の裏をまわって、蔦之助の姿が、もっとも近く見えるところからすきみをしていた。

ところが、竹童の信念はくつがえされて、弓をとっては神技といわれている蔦之助が、どうだろう、この不覚? このみにくい敗れ方!

「ちぇッ」

というと、鞍馬の竹童は、くやし涙がにじみだして、思わずそこへすわりたくなってしまった。

あの徳川方のものの嘲笑が伊那丸さまや民部さまの耳にどんなにいたく聞えるだろう。あなたにいる豊臣家の人々や、忍剣や小文治が、それをどんなにつらく見つめたろう。

竹童は腰のささえをはずされたように、うしろへよろけた。

そして、

「ああ、ざんねんだ……」

と太い息をついたが、ふと気がついてみると、そこは奉行小屋の裏手らしく、すぐ向こうから十数間のあいだには、ズッと鯨幕がはりめぐらしてあって、一方の帳には黒く染めぬいた葵の紋印が大きく風をはらんでいる。