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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
笛ふく咲耶子
一
八幡船の親船がかえってきたのだ。もうすぐそこ――島から数町の波間のちかくへ。
「いよいよ最期となった。クロ! わしの運命はおまえのつばさに乗せてまかすぞよ」
坐して死をまつも愚と、伊那丸は鷲の背中へ、抱きつくように身をのせた。
思うさま、人の血をすすったクロは、両の翼でバサと大地をうったかと思うと、伊那丸の身を軽々とのせたまま、天空高く、舞いあがった。
笛ふく咲耶子
一
「あれ、あれ、ありゃあなんだ?」
「おお、島からとび立ったあやしい魔鳥」
「鷲だッ。くろい大鷲だ」
白浪をかんで、満々と帆を張ってきた八幡船の上では多くの手下どもが、あけぼのの空をあおいで、潮なりのようにおどろき叫んでいた。
さわぎを耳にして、船部屋からあらわれた龍巻九郎右衛門は、ギラギラ射かえす朝陽に小手をかざして、しばらく虚空に旋回している大鷲の影をみつめていたが、
「ややッ」にわかに色をかえて、すぐ、
「あの鷲を射おとせッ、はやくはやく。遠のかねえうちだ」
とあらあらしく叱咤した。おう! 手下どもは武器倉へ渦をまいて、弓鉄砲を取るよりはやく、宙を目がけて火ぶたを切り、矢つぎばやに、征矢の嵐をはなしたが、鷲はゆうゆうと、遠く近くとびまわって、あたかも矢弾の弱さをあざけっているようだ。