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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

吹針の蚕婆

一

「それなら大安心、これでわたくしの荷も降りたというわけ。ではみなさんごめんなさいまし、さようなら」

いま、ツイそこでおじぎをしていたかと思うまに、もう燕作のすがたは、松の樹がくれに小さくなって、琵琶湖のほうへスタコラと歩いていた。

「おそろしい足早な男もあるもの――」

福島正則は、家来の可児才蔵と顔をあわせて、しばし、あきれたように竹ノ子笠を見送っていた。

吹針の蚕婆

一

うえの羽織は、紺地錦へはなやかな桐散し、太刀は黄金づくり、草色の革たびをはき、茶筌髷はむらさきの糸でむすぶ。すべてはでずきな秀吉が、いま、その姿を、本丸の一室にあらわした。

そこでかれは、腰へ手をまわし、少し背なかを丸くして、しきりに壁をにらんでいる。達磨大師のごとく、いつまでもあきないようすで、一心に壁とむかいあっている。

飯をかむまもせわしがっているほどの秀吉が、にらみつめている以上、壁もただの壁ではない。縦六尺あまり横三間余のいちめんにわたって、日本全土、群雄割拠のありさまを、青、赤、白、黄などで、一目瞭然にしめした大地図の壁絵。――さきごろ、絵所の工匠を総がかりで写させたものだ。